ニュースの概要
米ヘルスケア企業のHims & Hers Healthは、会員向けの特典プログラム「Hims & Hers Benefits」に新しい提携先を4社加えました。その一つが、家庭用筋力トレーニング機器を手がけるTonalです。同プログラムは3月の開始時点では2社でしたが、今回の追加で14社まで増えました。Tonalの機器は、重りの代わりにモーターで負荷をつくり、AIがフォームを見て助言します。利用者の状況に合わせて負荷を調整できる点も特徴です。診察や処方を中心にしてきた会社が、日々の運動や体の検査まで含めた「体全体の健康」の入り口を広げようとしている動きといえます。
引用元: Hims & Hers、家庭用筋力トレーニング機器Tonalを福利厚生プログラムに追加(Business Wire)
分析・見解
診察の会社が運動機器に手を伸ばす理由
Hims & Hersは、もともとオンライン診療と処方薬の販売で成長してきた会社です。ただ、診察は症状が出てから使うものです。会員が次に来るまでの間は、会社との接点がほとんどありません。
筋トレ機器や体質検査の会社と組めば、その空白の期間にも会員と関われます。毎週のトレーニング記録は、半年に一度の診察より多くの情報をもたらします。提携の狙いは、割引の提供よりも、会員との接点を増やすことにあると見るのが自然です。
3月の2社から14社へ、広がり方が示す設計
開始から数か月で提携先が7倍に増えたのは、特典を自前で作らず、他社の力を借りる方式を選んだからです。自社で運動機器を開発すれば、数年と巨額の投資が必要になります。
この方式は、スマートフォンのアプリ市場に似ています。主役は入り口を持つ会社で、個々のサービスは外から集めます。会員数が増えるほど、提携先にとっては新規顧客の獲得先として魅力が増します。Tonalのように高価な機器を売る会社は、購入前の不安を減らしてくれる紹介元を強く求めています。
負荷をデジタルで制御する機器の強みと弱み
Tonalの機器は、壁に取り付けた本体から、モーターの力で負荷を生み出します。重りの付け替えが要らず、動きに合わせて負荷を細かく変えられます。AIが動きを見てフォームを指摘する仕組みもあります。
家庭で一人で行う筋トレでは、けがの原因は姿勢の乱れであることが多く、この助言は価値があります。一方で、機器は数十万円規模の買い物で、設置場所も必要です。続けられるかどうかは、機器の性能より本人の習慣に左右されます。会員向けの特典で購入のハードルが下がっても、使い続ける仕組みまで用意できなければ、押し入れの肥やしになりかねません。
見落とされがちな視点は、データの持ち主が誰になるか
独自の視点を一つ挙げるなら、データの扱いです。診療記録、運動記録、体質検査の結果が同じ会員像に集まれば、本人にとっては便利です。同時に、一つの会社が健康に関する情報を広く握ることになります。
今後は、どこまでを提携先と共有するのか、会員が選べるのかが競争力になります。便利さと安心感の両立が、このモデルの長期的な成否を決めるでしょう。
ビジネスへの影響
福利厚生は割引ではなく継続の仕組みで選ぶ
企業が従業員向けの健康施策を考えるとき、これまでは「ジムの割引」のように、使う人だけが得をする形が中心でした。今回の動きは、診療、運動、検査をまとめて案内する形が現実的になってきたことを示しています。
導入を検討する担当者は、特典の数よりも、利用が続く仕組みがあるかを確認すべきです。具体的には、開始後三か月の利用率や、継続している人の割合を提携先に聞いておくと失敗が減ります。
小さな会社でも使える提携の組み立て方
この方式は、大企業だけのものではありません。自社の主力サービスを軸に、足りない部分を他社と組んで補うやり方は、中小企業でも応用できます。
たとえば地域の整骨院が、食事指導の事業者や運動施設と紹介し合うことは、少ない投資で始められます。ただし、顧客の個人情報を扱う場合は、共有の範囲を事前に決め、本人の同意を得ることが前提です。
また、提携先を急いで増やしすぎると、品質のばらつきが生じます。まず少数で成果を確かめ、利用実績を見ながら増やす進め方が、結果的に早道になります。
